この日の「彼女」の上目つかいの瞳は「媚」で潤沢なひかりをたたえていた。
いち枚、に枚、さん枚、よん枚、ご枚と。
1、2、3、・・・じゅうご。
廻りもの、水物。
金の形容だ。
オレの財布がかりそめの居場所であった6万5千円は「彼女」との逢瀬の後、「彼女」の手中にはかなくも消えた。
そこがオレの財布の中よりも相応しい場所であるかの様に。
いや、事実そうなのだ。
「彼女」のもとが納まるべき場所ではあったのだが、、、
「彼女」のもとが納まるべき場所ではあったのだが、、、
そういう契約だ。
「主人には内緒よ」
貧乏人から20枚の紙幣をむしり取る、その躊躇なき様に「彼女」の季や功を感じるのだ。
「わるいね」
「支度中」の札が掛かりシャッターが下りた狭い店内、昼下がりの密会。
「彼女」の不実。
ふたりの秘密。
安っぽい蛍光灯の明かりが「彼女」のおしろいを無惨な質感で表出させる。
オレは何度も薬用ミューズで手を洗った。何度も。何度も。
用を済ますと「彼女」は去った。
残されたおしろいの芳香。
「これがあたしというおんなの哀しい性なの」
そう語っているような。
「彼女」の痕跡が薄らぎ、シャッター越しから洩れる商店街の喧噪がオレの耳に戻って来た。
仕込み途中であった我にハタ!とかえった。
オレは何度もイソジンでうがいした。何度も。そして何度も。
オレは一歩深入りしてしまったのか。。。
オレは一歩深入りしてしまったのか。。。
*** ***
今月は手渡しで家賃完納です。
いやね、奥さんったら
「旦那の金を内緒で使い込んじゃったから、1月分の家賃は振込じゃなくて手渡しで寄越せ」
とおっしゃるんです。
「主人には内緒よ」なんて。
オレは払うべきものを払っただけなんだけどね。
手渡しか、振込かのちがいというだけであってね。
しかし、何買ったんだよ、XX万も。
「これがあたしというおんなの哀しい性なの」
夫婦間の火種はちゃんと消しておいてくださいよ、
オレとしては「秘密」には関わりたくかったです。
あ、情事は無しよ。今後も無い。
師走ですな。
師走ですな。