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2012-12-27

完納小説。

小柄なオレよりさらに小柄な「彼女」はいつも上目つかい。

この日の「彼女」の上目つかいの瞳は「媚」で潤沢なひかりをたたえていた。




いち枚、に枚、さん枚、よん枚、ご枚と。

1、2、3、・・・じゅうご。

廻りもの、水物。
金の形容だ。

オレの財布がかりそめの居場所であった6万5千円は「彼女」との逢瀬の後、「彼女」の手中にはかなくも消えた。

そこがオレの財布の中よりも相応しい場所であるかの様に。

いや、事実そうなのだ。

「彼女」のもとが納まるべき場所ではあったのだが、、、

そういう契約だ。


「主人には内緒よ」

貧乏人から20枚の紙幣をむしり取る、その躊躇なき様に「彼女」の季や功を感じるのだ。

「わるいね」


「支度中」の札が掛かりシャッターが下りた狭い店内、昼下がりの密会。

「彼女」の不実。
ふたりの秘密。



安っぽい蛍光灯の明かりが「彼女」のおしろいを無惨な質感で表出させる。
オレは何度も薬用ミューズで手を洗った。何度も。何度も。

用を済ますと「彼女」は去った。


残されたおしろいの芳香。
「これがあたしというおんなの哀しい性なの」
そう語っているような。


「彼女」の痕跡が薄らぎ、シャッター越しから洩れる商店街の喧噪がオレの耳に戻って来た。
仕込み途中であった我にハタ!とかえった。

オレは何度もイソジンでうがいした。何度も。そして何度も。

オレは一歩深入りしてしまったのか。。。

     ***     ***


今月は手渡しで家賃完納です。
いやね、奥さんったら
「旦那の金を内緒で使い込んじゃったから、1月分の家賃は振込じゃなくて手渡しで寄越せ」
とおっしゃるんです。
「主人には内緒よ」なんて。

オレは払うべきものを払っただけなんだけどね。
手渡しか、振込かのちがいというだけであってね。

しかし、何買ったんだよ、XX万も。

「これがあたしというおんなの哀しい性なの」



夫婦間の火種はちゃんと消しておいてくださいよ、
オレとしては「秘密」には関わりたくかったです。



あ、情事は無しよ。今後も無い。



師走ですな。